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新潟地方裁判所 昭和30年(行)8号 判決

原告 中村喜作 外一五名

被告 鯖石川土地改良区

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告が昭和三十年五月原告らに対しそれぞれ別紙一時利用地指定目録記載のとおり同目録記載の各土地についてなした一時利用地の指定処分はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、」との判決を求め、その請求の原因として、

「一、原告らは、いずれも被告土地改良区の組合員で、同土地改良区の地区内にそれぞれ別紙物件目録(一)記載のとおり同目録(一)記載の各土地を所有している。

二、ところで、被告土地改良区は、昭和三十年五月土地改良事業の工事を施行するにあたつて原告らに対しそれぞれ別紙一時利用地指定目録記載のとおり同目録記載の各土地について一時利用地の指定をした。

三、しかしながら、右一時利用地の指定処分は、つぎの理由によつて違法である。すなわち

(一)  土地改良法第五十一条第二項によれば、同法条にもとづいて定める一時利用地は、従前の土地の地目、地積、土性、水利、傾斜、温度等を標準として定めなければならない、と規定せられており、右にいわゆる従前の土地の地積とは、従前地の実測面積を指称するものと解すべきであるから、結局、同法条にもとづいて一時利用地を定める場合には、従前地の地目、土性、水利、傾斜、温度等のほか、その実測面積を標準として定めなければならないのである。しかるに被告土地改良区が同法条にもとづいて原告らに対して定めた前記一時利用地は、その従前地たる原告ら所有の同目録(一)記載の各土地の地積を標準とするにあたつて、いずれもその実測面積である同目録(二)記載のとおりの面積を標準とせず、いずれもその公簿上の面積である同目録(一)記載のとおりの面積を標準として定めたのである。その結果、同目録(一)および(二)の対比によつて明らかなとおり、原告らの所有にかかる右各土地の実測面積は公簿上の面積に比し著るしく増歩があり、しかも、その増歩の割合は、原告ら相互の間において甚だしく不均等であつたところから、被告土地改良区が原告らに対して定めた前記一時利用地の実測面積は、従前地たる原告らの所有にかかる右各土地の実測面積に比較して著るしく減少するにいたつたばかりでなく、その減歩の割合も原告ら相互の間において甚だしく不公平な結果をきたすにいたつたのである。

かようなわけで、被告のなした前記一時利用地の指定処分は、土地改良法第五十一条の規定に違反するものであつて、違法たるを免れない。

(二)  仮りに、右理由がないとしても、原告らは、昭和二十九年十一月三日その代表者を通じて被告土地改良区との間において、同土地改良区が土地改良事業たる工事の施行にあたつて原告ら所有の右土地について原告らのため一時利用地を指定する場合には、(一)原則として現地換地となるように定めること、(二)原告ら所有の右各土地の実測面積を基準として一時利用地を定めることとし、これによつて原告らに対し右(一)に掲げたような不利益な結果を招来せしめないこと、という趣旨の契約を結んだ。しかるに、被告土地改良区は、右の契約を無視して前記(一)記載のごとく一時利用地の指定をした。

そうすると、被告のなした前記一時利用地の指定処分は、右契約に違反したものであつて、違法といわなければならない。

四、よつて、原告らは、被告のなした前記一時利用地の指定処分の取消を求めるものである。」

と述べ、なお、被告の主張に対し、「被告土地改良区がその主張のように原告ら所有の右土地を含む各土地について換地計画を定めるとともに新潟県知事の認可をうけその旨の公告がなされたことはすべて認める。」と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する、」との判決を求め、答弁として、

「一、原告らは、本訴において被告のなした前記一時利用地の指定処分の取消を求めるものであるところ、被告土地改良区は、昭和三十三年三月十六日換地総会の議決を経て原告ら所有の前記各土地を含む同土地改良区第二区、および第三区内の各土地について換地計画を定めるとともに、同月三十一日(同月二十四日は誤りと認める。)新潟県知事の認可をうけ、そのころその旨の公告がなされた。そうすると、被告のなした前記一時利用地の指定処分の取消を求める原告らの本件訴は、すでに法律上の利益を欠くにいたつたものというべきである。

二、本案について、

(一)  原告ら主張の事実中、原告らがいずれも被告土地改良区の組合員であつてその地区内にいずれもその主張のような土地を所有してきたこと、被告土地改良区が昭和三十年五月原告ら主張のように一時利用地の指定処分をしたこと、および被告土地区改良区が右一時利用地の指定をなすにあたつては、その従前地たる原告ら所有の右土地の公簿上の面積を基準として定めたものであることはいずれも認めるが、その他の事実はすべて争う。

(二)  被告のなした前記一時利用地の指定処分は、つぎに述べるような理由によつて適法である。すなわち、

1  土地改良法第五十一条第一項によれば、土地改良区は、規約の定めるところにより一時利用地を指定することができる旨規定しているところ、被告土地改良区規約第四十条によれば、土地改良区の理事会は、換地委員会の意見にもとついて土地改良法第五十一条の規定により一時利用地を指定することができる旨規定している。ところで、被告のなした前記一時利用地の指定処分は、被告土地改良区理事会が昭和三十年四月十八日換地委員会の意見にもとづいてなしたものであるから、右一時利用地の指定処分は、手続上何らのかしもないのであつて、適法である。

2  また、土地改良法第五十一条第二項によれば、一時利用地は、従前の土地の地目、地積、土性、水利、傾斜、温度等を標準として定めなければならない旨規定していたが、同法中には、右一時利用地を定めるにあたつて従前地の地積を標準とする場合にはその実測面積を標準としなければならない旨を定めた規定は全くないばかりでなく、右法条にいわゆる従前地の地積とはその実測面積を指称するものと解することもできないのである。要するに、土地改良区が一時利用地を指定するにあたつては、同法第五十一条第二項の規定にもとづいて前記のとおり従前地の地積その他を標準としてこれを定めなければならないのであるが、この場合従前地の地積を確定するについて実測面積によるか、公簿上の面積によるかは当該土地改良区においてその両者の面積の広狭、その他の具体的事情にしたがつて決すべきものなのであつて、当該土地改良区の自由な裁量に委かされているものというべきである。したがつて、被告土地改良区が前記のように従前地の公簿上の面積を一基準として一時利用地を定めたからといつて直ちに違法ということはできない。もつとも、従前地の地積を定めるについて実測面積によるか公簿上の面積によるかは当該土地改良区の自由裁量事項に属するとはいえ、被告土地改良区において前記のように従前地の地積を確定するについて実測面積を基準とせず、公簿上の面積を基準としたことがその裁量権の範囲を逸脱している場合には、これにもとづく一時利用地の指定処分はもとより違法たるを免れないものというべきであるけれども、(一)田、畑等における実測面積と公籍上の面積との間には広狭の差のあることは通例であるが、米の供出、公租、公課等の負担はすべて公簿上の面積を基礎としてなされているのに、ひとり一時利用地を指定する場合にのみ常に必ず実測面積を基礎としてしなければならぬということは妥当を欠くといわなければならないこと、(二)原告ら所有の従前地における実測上の面積と公簿上の面積との差異が各人相互の間において著るしく不均等であつたというようなことのなかつたこと、(三)被告土地改良区が原告ら所有の右従前地の地積を確定するにつて公簿上の面積を基準としたのは、右従前地の所属する善根、与板区(被告土地改良区が区画整理事業施行のため同土地改良区の地域を区分した一工事地区)の規約第一条、第十三条第三項第一および第九号、被告土地改良区規約第四十条等の規定にもとづいてなしたものであること等からすれば、被告土地改良区が前記のように原告ら所有の従前地の地積を確定するについてその実測面積を基準とせず、公簿上の面積を基準としたからといつて少しもその裁量権の範囲を逸説したというようなこともないのである。したがつて、被告土地改良区のなした前記一時利用地の指定処分は、実質的にも何らのかしもないのであつて、適法といわなければならない。

のみならず、被告土地改良区がなした前記一時利用地の指定処分は、同土地改良区の総代会における決議、すなわち、一時利用地は従前地の公簿上の面積を基準としてこれを定める旨の決議にもとずいてなしたものであるから、右一時利用地の指定処分は、この点からしても適法といわなければならない。

(三)  なお、原告らは、右一時利用地の指定処分は、原告らと被告間に結ばれた契約に反するものであつて違法である旨主張するけれども、(右主張のような契約締結の事実の存しないことは前記のとおりであるが、)仮りに、原告らと被告間にその主張のような契約が結ばれたとしても、かかる契約は、いわば公法上の効果の発生を目的とするものであり、したがつて、法令上特にかかる契約に関する定めのない限りその効力を生じないものというべきところ、かかる契約の締結を認めた法令は全く存しないのであるから、右の契約は所詮無効というほかなく、したがつて、被告土地改良区が右の契約に反して前記のように一時利用地の指定をしたからといつてこれを違法ということはできない。」

と述べた。(立証省略)

理由

原告らの本訴請求は、要するに、被告土地改良区が土地改良法第五十一条の規定にもとづいて昭和三十月五月その組合員たる原告らに対しそれぞれ別紙一時利用地指定目録記載のとおり同目録記載の各土地についてなした一時利用地の指定処分の取消を求めるものであるところ、被告土地改良区が昭和三十三年三月十六日法定の会議の議決を経たうえ原告らの所有にかかる右一時利用地の従前地たる別紙物件目録(一)記載の各土地を含む同土地改良区第二区および第三区の地域内にある各土地について換地計画を定めるとともに、同月三十一日新潟県知事よりその認可をうけ、そのころその旨の公告がなされたことは当事者間に争いのないところである。そうだとすると、これによつて原告らは前記一時利用地指定処分にもとづく使用、収益をすることができなくなつたものというべきであるから、原告らにおいて被告土地改良区のなした右一時利用地の指定処分の取消を求める本訴請求は、すでにその法律上の利益を欠くにいたつたものといわなければならない。

よつて、原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条、第九十三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 唐松寛 藤田耕三)

(別紙目録省略)

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